父の挽いたコーヒー
父親がコーヒー好きで、自分で豆を挽いては丁寧に入れて飲んでいるのを見て、子供の頃は買ってきたコーヒーとは何が違うのか不思議に思っていました。私自身は独身の頃はコーヒーや紅茶にはたっぷり砂糖とミルクを入れてでないと飲めなかったので、焙煎したコーヒー豆をわざわざ家で挽いてブラックで飲んでいる父親の姿が自分とは遠いもののように思っていました。
結婚して子供を産み、子供たちから手が少しづつ離れてきた今、私の小さな幸せはお気に入りの珈琲豆を丁寧に挽いて、使い勝手のいいポットでお湯を沸かし、入れて飲む事。あのときの父と全く同じことをしています。きっかけは友人と訪れたカフェで飲んだブラックのコーヒー。コーヒーの口に残る酸味のある後味が何とも好きではなかったのに、そのコーヒーには全く嫌な後味がなく、お茶の様にさらっと優しい、それでいて深い味わいがとても印象深く残りました。
聞けばそのカフェの近くにある小さなコーヒー豆の自家焙煎のお店から仕入れた豆で入れているコーヒーだとか。早速後日訪れて、初めて豆とミルを買ってみました。教わった通りに豆を挽き、ハンドドリップで入れたコーヒーは本当にさらりとして優しいけれど深い味。それ以来すっかり私のリラックスタイムに欠かせないものになりました。
引きたての粉にお湯を注ぐと何とも言えない香ばしい香りが部屋中に広がり、お湯で膨らむコーヒーの粉を見ているだけでもなんだかホッとして気持ちが温かくなります。私の父もきっとこんな同じ気持ちでコーヒーを入れていたんだろうなと思います。小さいけれど、深い幸せ。私が挽いたコーヒーを父にもごちそうしてあげたかったな。